中小企業のテレワークの環境整備(IT導入)のポイント
働き方改革のもと進められてきたテレワークですが、新型コロナウイルス拡大を受けて近年注目を浴びることになりました。政府の力の入れようも相当なもので、厚生労働省、総務省、経済産業省が、助成金・補助金や無料相談など、様々なテレワーク導入支援策を打ち出しています。
本コラムでは、テレワークの環境整備のポイントをお伝えしたいと思います。
(厚生労働省のテレワーク総合ポータルサイト を参考にしています。)
目次
テレワークの導入目的
総務省「平成30年通信利用動向調査」によれば、テレワークの導入目的で上位5つは次の通りとなっています。
1位:定型的業務の生産性の向上
2位:勤務者の移動時間の短縮
3位:通勤困難者への対応
4位:勤務者のゆとりと健康生活
5位:人材の雇用確保・流出防止
勤務者の移動時間の短縮や通勤困難者への対応といった場所を選ばずに仕事ができることで直接的に受ける恩恵を目的としているだけでなく、定型的業務の生産性の向上のようなテレワークを行うにあたり業務プロセスのデジタル化対応によって生まれる恩恵なども目的としている企業も多いようです。
テレワーク導入プロセス
テレワーク導入の大まかなプロセスを説明します。
1.導入の検討と経営判断(導入目的・基本方針の決定)
どんなITを導入する際にも最初に検討することになりますが、導入目的・基本方針を必ず決める必要があります。
ここでのポイントは、テレワークを導入することで目的が達成できるような方針にはしないことです。
少しややこしいかもしれませんが、下記のような目的では駄目です。
×:テレワークを導入することで、定型的業務の生産性の向上させる
駄目な理由は、テレワークを導入するだけでは定型的業務の生産性の向上を達成できることは無いからです。テレワーク導入以外にも様々施策を実施する必要があり、そのことを考慮して方針を決めなければいけません。
2.推進体制の構築
推進体制には下記の部門が含まれる必要があります。
・情報システム部門
・人事・総務部門
・導入対象部門
テレワークを導入するためには、必ずITシステムが必要になるので情報システム部門の参加は必須です。また労務規約や社内ルール、評価方法が変更になる可能性があるので人事・総務部門も必須です。そして、導入部門は業務プロセス(業務のやり方)が変更になるので必ず参加させる必要があります。
3.現状把握(業務分析)
テレワークの導入を予定している部門の現状を把握します。例えば、業務時間はどれくらいか、使用文書はどれくらいデジタル化されているか、導入しているITシステムは何か、個人情報をどれくらい扱っているか、どのようなコミュニケーションが行われているかなどを調査します。
調査結果を分析し、現状でテレワーク可能な業務、対策実施によりテレワーク可能となる業務、テレワーク実施困難な業務を確認します。
4.導入にむけた具体的推進
テレワーク導入するために実際に対応(変更)を行います。
主に次の事項を実施することになります。
①導入範囲(対象者)の選定
②形態(在宅・モバイル・サテライトオフィス)
③労務管理制度の見直し
④社内制度・ルールの整備
⑤システムの準備(セキュリティ)
⑥文書の電子化
⑦執務環境の整備(例えば、在宅勤務の場合、作業場所や机、椅子などの備品)
⑧教育・研修(意識改革と、社内ルール徹底やITシステム操作訓練)
5.試行導入
本格導入する前に試験的に導入を行います。テレワークを導入する課程で様々な課題が見えてくると思います。全ての課題を導入前に見つけ出し、解消することはまず不可能です。試験的に一部の社員や、特定の業務に対してテレワークを実施してもらい、社員の声を聞いてみることで課題を見つけることが重要です。
6.本格導入
試行導入により見つかった課題を解消してから本格導入を行います。導入後も様々な課題に遭遇しますので、対応するための社内体制作りが、テレワーク導入の成功へのポイントとなります。
テレワーク環境設備(IT導入)のポイント
システム方式の選択
テレワークを実現するシステムの形態は4種類あります。
コスト・セキュリティ・社員のIT理解具合を主に考慮してこの中からどれか選択することになります。
システム方式 | 説明 |
---|---|
リモートデスクトップ方式 | オフィスに設置されたPCのデスクトップ環境を、オフィスの外で用いるPCやタブレット端末などで遠隔から閲覧及び操作する方式 |
仮想デスクトップ方式 | オフィスに設置されているサーバから提供される仮想デスクトップに、手元にあるPCから遠隔でログインして利用する方式 |
クラウド型アプリ方式 | Web上からクラウド型アプリにアクセスし作業する方式 |
会社PCの持ち帰り方式 | 会社で使用しているPCを社外に持ち出し、主にVPN装置等を経由して社内システムにアクセスし、業務を行う方式 |
仮想デスクトップ方式は、セキュリティが堅牢で、切り替え時の社員の負担が少なく導入しやすいのですが、仮想デスクトップの仕組みを新たに構築し運用する必要があり、この中で一番コストが掛かります。クラウド型アプリ方式は業務で使用する全てのアプリをクラウドに変更する必要があり対応に時間が掛かります。会社PCの持ち帰り方式はセキュリティ面で社員に頼る部分が大きくなり会社としての管理が難しくなります。そこでリモートデスクトップ方式を一番最初に考えてみるのがよいでしょう。
必要となる設備
テレワークを開始するにあたり、最低限揃えなければならない設備を紹介します。
リモート用のPC
社外で作業を行うためのPCを用意する必要があります。会社でPCを提供するまたは社員個人のPCを使ってもらうことになると思います。会社でPCを用意すると導入コストがかさみますが、PC紛失などで情報漏洩時の会社への被害、個人PCのウイルス対策管理など運用で掛かるコストを考慮すると、PCを会社が提供するほうが総合的にコストを抑えることができると思われます。
ネットワーク
社外から会社のネットワークに接続できる環境が必要になります。モバイルWifiを提供するまたは家庭用ネットワークを使ってもらうことになると思います。ネットワークを選ぶ際には特にセキュリティに考慮する必要があります。誰でも接続できる無料Wifiは、データを盗聴される可能があるので絶対に使用してはいけません。
リモートで接続するためのソフトウェア(リモートデスクトップの場合)
社外から会社PCに接続するためのソフトウェアを導入する必要があります。ソフトウェアには有料のものと無料のものがあります。無料のものは総じてセキュリティが脆弱で情報漏洩の可能があり会社で使うにはリスクが高いと思います。また、操作スピードが遅くなりやすく作業効率も下がる可能性があります。運用コストが掛かりますが、有料ソフトウェアを使うことを強くお勧めします。
チャットアプリ
テレワークでは、社員同士のコミュニケーションに課題が生じます。物理的に離れることにより社員同士で気軽に会話ができません。そこで気軽にコミュニケーションを行えるチャットアプリの導入が必要になります。口頭で済んだものをわざわざ文字にすることが煩わしいと感じるかもしれませんがすぐに慣れます。現在、LINEような短文メッセージで会話するアプリが世間一般で浸透しており、既に抵抗が無い社員も多いと思います。
また、文字を一斉に送ることができチーム内での情報共有がし易くなり、履歴が残るので後からでも会話に参加することが可能になるなど利点も多くあります。
テレビ会議システム
どうしても口頭で伝える必要がある場合も生じます。そういったときにはテレビ会議システムを用いることでカバーできます。数年前までは画像も音声も悪かったのですが、最近はとてもきれいになりました。表情もきちんと読み取れるので、普通に対面しているのと変わらないコミュニケーションが取れるはずです。
グループウェア
ビジネスにおいて情報の共有は、企業の競争力を高める上でとても重要な要素となります。紙ベースで情報を伝達または保管しいると、テレワークでは情報を共有することができません。紙ベースの資料をデジタルデータ化することが必要であり、またそのデータを保管し社員で共有する仕組みが必要となります。そこでグループウェアを導入すれば、データの管理、共有が簡単に行えます。
また、ビジネスにおけるコミュニケーションで必ず行うのが進捗報告や予定確認だと思います。グループウェアには、日報の管理機能やスケジュール管理機能もあり、会話によって時間を取られること無く情報を共有することができます。
テレワーク環境設備(IT導入)のコスト
厚生労働省のテレワーク導入ガイドラインや他資料をみてもどれくらいコストが掛かるかについてあまり触れていません。これはテレワークの形態や、導入する設備により大きく変わるので伝えられないからです。
あくまで一例として捉えてほしいのですが、テレワークの環境を整えるにはどれくらいコストが掛かるか算出しました。
設備の初期導入コスト
設備名 | コスト(一人分) | 備考 |
---|---|---|
PC | 80,000円 | ノートPC、ハードディスクの容量は少なくて問題無い |
ネットワーク | 3,000円 | WiMAX 2+の初期導入費 |
合計 | 83,000円 |
設備の運用コスト
設備名 | コスト(一人分、月額) | 備考 |
---|---|---|
ネットワーク | 3,880円 | WiMAX 2+ データ無制限 |
ウィルス対策ソフト | 300円 | McAfee |
リモートデスクトップ用ソフト | 1,250円 | Splashtop Business |
チャットアプリ | 800円 | チャットワークス |
テレビ会議システム | 1,600円 | ZOOM |
グループウェア | 500円 | サイボウズ Office |
合計 | 8,330円 |
社員1人当たり、導入コストに83,000円、月の運用コストに8,330円ぐらいは掛かると思われます。
テレワーク導入サポート
テレワークを導入するには、環境設備を整えるだけでなく、労務管理についてもしっかりと検討する必要があります。厚生労働省ではオンラインによる無料コンサルティングを行っています。
コンサルティング内容は次とおりです。
① テレワーク導入時の就業規則に関すること
② テレワーク適用業務の選定に関すること
③ テレワーク時の労働時間管理に関すること
④ テレワーク時の人事評価に関すること
⑤ その他テレワークにおける労務管理に関すること
労務管理について疑問があれば活用してみてください。
また、弊社では、テレワーク導入も含め、ITと経営を結びつけることによる経営革新、業務改善をサポートしております。お気軽にお問い合わせください。(コンサルティングは有料となります。)
弊社ホームページ:オフィスキシガミ | 中小企業診断士/ITコーディネータ事務所
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