IT導入失敗原因を回避するには(COCOAから得る教訓)
新型コロナウイルス接触確認アプリ「COCOA」において、4ヶ月間アプリの不具合を見過ごしていた問題について令和3年4月16日に厚生労働省が調査結果・対策防止策を発表しました。新聞紙各社も発表と同時に取り上げていました。
朝日新聞電子版でのタイトル
・COCOAの不具合放置、厚労省「認識不足や業者任せ」
・「人も専門知識も足りず」 COCOA業務のお寒い体制
日本経済新聞電子版でのタイトル
・COCOA無責任の連鎖 行政デジタル改革に教訓 不具合報告書 多重委託、厚労省に専門知識なく
読売新聞電子版タイトル
・COCOA不具合、業者任せだった厚労省担当者…アプリ知識不足が原因と総括
こう見ると、厚生労働省の専門知識不足、体制不備、責任所在が不明瞭、だったことが原因のように思えます。
本コラムでは、COCOAの失敗を、企業(特に中小企業、個人事業)のIT導入に活かせるように考察しました。
失敗の原因は?
不具合の調査・再発防止策の検討内容は、COCOA不具合調査・再発防止策検討(厚生労働省)に掲載されています。
この調査書によると次の現状があったそうです。
・9月28日にリリースした1.1.4バージョンアップに不具合があり、Androidユーザ限定で、通知が一切出ない状態になりました。
・不具合についてユーザの声が挙がっていたのですが直ぐに対応されず、修正までに4ヶ月掛かってしまいました。
そして問題は次のことにあったようです。
1.テスト環境の用意がされてなく、テスト不十分のまま1.1.4バージョンをリリースしたこと
2.リリース後、不具合を解消するための体制の不備
3.職員のシステム問題への認識の甘さ
1.テスト不十分のまま1.1.4バージョンをリリースしたこと
テスト環境が無い、十分なテストができないどうしよう?
テストに変わる方法で問題ないことを証明しよう
プログラムソースを全行読んでミスがないか確認だ!!
このようなやり取りがあったかどうかわかりませんが、
・テスト環境が無かった
・なんとか工夫して(今回はプログラムソース全行確認)、システムに問題ないことを証明しようとした
そうです。
なんとかしてやろう精神のもと、様々な工夫をして無理難題を解決しようとすることはよくあることです。今回は残念ながら失敗してしまいました。
なぜ、テスト不十分でもリリースしたのでしょうか?
厚生労働省のIT知識不足だって考えてしまいそうになりますが、そのときの現場の状況がそうさせたと思われます。令和2年8月21日にCOCOAで通知があったら場合PCR検査が公費で可能になりました。しかし、そのときのバージョンでは陽性者と「単なる接触」でも通知されてしまって保健所の負荷が非常に高まったようです。そのため「濃厚接触」だけを通知するように変更した1.1.4バージョンの重要性が高くなり、できるだけ早くリリースしたいと望まれた結果だと思います。
2.リリース後、不具合を解消するための体制の不備
システムに関するユーザの声は、対応しておいて
契約には入ってないけど、断れないな
このようなやり取りがあったかどうかわかりませんが、
・GitHubに挙がったユーザの声の対応について正式な契約を交わしていなかった
・どのように対応していくかのルールもフローも作っていなかった
そうです。
COCOAは、GitHubでソースコードを公開しています。これは、プログラムソースを公開することで、世界中の善意のIT専門家にソースコードを確認してもらいバグがあるなどの意見をもらう仕組みです。そこでは今回の不具合が指摘されていたそうですが、それが活かされずに不具合を解消するまでに時間が掛かりました。
GitHubの管理についてルールやフローが決められていなかったそうです。そのため厚生労働省と業者で認識のズレが生じたようです。厚生労働省側は業者がGitHubで挙がってきた意見を精査し対応するものだと思っており、業者側はGitHubで挙がってきた意見を定例会議の中で報告するに留まり、また、複数ある業者のどこかが対応しているものと思っていたそうです。
3.職員のシステム問題への認識の甘さ
こんな問題挙がってます
システム以外でも問題抱えている
緊急以外は後回しだ
このようなやり取りがあったかどうかわかりませんが、
・厚生労働省内で、多くの対応すべき課題があった
・どこの部署も人が足りず増員は難しい状況であった
そうです。
不具合を隠していた事実はなかったそうです。不具合を把握していながら対応が遅れたのは、不具合に対しての重要度の認識が甘かったと思われます。業務を抱えている方々にとってシステム対応は二の次になりがちです。金銭的な被害がでない限り後回しになります。特に今回のケースでは人員不足が輪を掛けており、不具合をきちんと把握すること自体できていなかったと思います。
学ぶべき教訓
中小企業・個人事業主にCOCOAと全く同じ状況が生じるとは思いませんが、今回の失敗より学ぶべき教訓がありますので次に挙げます。
王道を進む
開発したシステムに問題がないことをテスト以外で証明することは、IT導入において一般的なプロセスではありません。いわゆる特殊なプロセスです。一般的なプロセスはプロジェクトの成功率が高いのですが、時間が掛かる、作業量が多い、それに伴って費用が掛かります。特殊なプロセスは、時間短縮、作業縮小、費用削減の効果もあるかもしれませんが、今回のCOCOA問題のように失敗する可能性が高いです。失敗するとリカバリ、調査・再発防止検討、謝罪などの作業が増え、信頼低下など不利益を被ります。
IT導入は、一般的なプロセスで進めることを心がけましょう。王道が結局最短ルートになります。
ただし、ITの知識がないと、何が一般で何が特殊か見抜くのは難しいと思います。また、おかしいと感じてもITベンダー側から「問題ない」と言われるとそのまま鵜呑みにしてしまうこともあるかもしれません。専門知識のあるコンサルタントに確認してもらう、ITの知識(特にIT導入に関する知識)を持った人材を育てる、新たに雇用するなどで対応する必要があるかと思います。
ルールは明確に決める
COCOAではGitHub管理において会社間のルールやフローが作られていませんでした。ルールやフローが無いと皆がそれぞれ都合のよい方に解釈し、誰にも責任が所在しない状態に陥ってしまいます。このようなことはIT導入プロジェクトにおいてはよくあり、特にITベンダーのように社外組織との連携で起こってしまいます。企業同士のやり取りでは企業風土などコミュニケーションする際の前提条件が違いますので、社内と同じような感覚で接していると認識のズレが生じるものです。
ITベンダーと仕事をする際には、ルールをきちんと決めることが大切です。
ただし、ルールやフローはプロジェクトを遂行する知識や経験がないと上手く作るのは難しいと思います。企業側で作成が難しいのであれば、ITベンダーに作成してもらったほうがよいと思います。しかしながら、そのルールやフローを遵守させる役割は企業側が担う必要があります。
システムの重要性を認識する
厚生労働省は新型コロナ対応で多くの課題を抱えていたこともあり、システム不具合の重要度を正しく認識できなかったと思います。企業のIT導入においても同じように、通常の業務が忙しくてシステム不具合の重要度を認識できないことがあります。特に金銭に直接影響する業務ほど重要度が高くなるのは企業としては当然ですので、システム対応が後回しになるのは仕方がないところです。しかしながら、今やシステムは経営にとって重要な要素の一つとなっています。重要度を正しく認識しないと重大な障害に繋がります。個人の都合だけで判断せず関係者間で確認しあうことで適切な重要度が確認できると思います。
システムが経営にどれぐらい貢献しているかをきちんと把握し重要度を認識することが大切です。
今回のCOCOAの失敗は、ITを利活用するために旧体制から新体制に変える際に、どの企業にでも生じる可能性のあるものだと思われます。ここから得られる教訓は、今後企業がIT化を進めるうえで役立つものになると思います。
弊社では、今回の教訓も踏まえ、企業のIT導入をサポート致します。お気軽にお問い合わせください。
弊社ホームページ:オフィスキシガミ | 中小企業診断士/ITコーディネータ事務所
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