中小企業がAIを使う目的と導入方法
経済産業省が、2021年3月31日に中小企業がAIを導入する際のノウハウをまとめた「中小企業向けAI導入ガイドブック」を公開しました。本資料では中小企業が主導でAI導入する方法が記載されています。AI導入を外注に頼むと数千万円は掛かるそうですが、中小企業でも手の届く範囲で導入する方法を例示しています。
目次
AIの導入目的例
AIは今までシステムで実現できなかった人の業務領域に対しても適用できるようになってきています。次に中小企業でAIを導入する主な目的をあげます。
(出典:経済産業省 令和2年度戦略的基盤技術高度化・連携支援事業(中小企業のAI活用促進に関する調査事業)調査報告書)
- 機械・施設へのセンサー取付による予知保全を通じた逸失利益・保全費用の最小化
- 売上実績等の社内データ・気候等の外部データの分析による需要予測・在庫最適化を通じた業務効率化・逸失利益・不良在庫最小化
- 文字認識(AI-OCR)・RPAによる受注-調達-請求・支払等の経理関連業務効率化
- データマーケティング(購買データ解析と個人向け販促)によるマーケ費用削減・売上増加
- 画像認識による不良箇所自動検出を通じた検品作業効率化
- 過去の取引実績や市場データ分析による企業間商談の効率化・高度化(B2B価格最適化含む)
- 人事データの蓄積・分析による人事業務最適化(採用・育成・人員配置の改善、離職率低減)
- 調達実績データの分析・発注の一元管理による、材料調達の最適化
- 購買データ分析・AIカメラを活用した新規小売店舗開発や棚割り・店舗レイアウト最適化
- 文字認識等による経費精算・給与支払い業務自動化
- シェアードAIチャットボットによる人事・経理・IT等の問い合せ対応の自動化
- トレンド分析を通じた新規商品・サービス開発最適化
- AIチャットボットによる顧客コミュニケーション効率化・売上機会の拡大
- AI制御されたロボットアーム導入による製造工程自動化
- その他コーポレート業務最適化・自動化(例: 法務)
- リアルタイム交通状況を反映したデータ分析に基づく、運送ルート・積載計画最適化
- 過去の売上実績および市場データ分析による小売価格最適化
- AIカメラ・センサーによる作業員の作業進度の把握を通じた製造工程効率化
- 市場データ分析による財務戦略および投資計画の最適化
AIを語る上で外せない超重要用語「モデル」とは
唐突ですが、AIにおける「モデル」という言葉について説明します。AIを語るうえで欠かせない言葉です。(中小企業向けAI導入ガイドブックには「モデル」の説明がありませんので補足になります。)
AIにおける「モデル」とは、学習後の計算式もしくは考え方の法則です。いわゆる育てられたAIの頭脳を指します。
例えば、ある商品で、売上数y個と気温x度の関係が、y=ax+bであったとします。(現実はこんな単純ではないのですが)
売上数y個と気温x度のデータを学習させることで、AIはaやbの最適な値を導き出し、y=2x+10のような計算式を確定させます。このy=2x+10のような具体的な計算式を「モデル」と呼びます。
世の中の複雑な関係性をITで再現できるようにしたのがAIであり、現在注目されている理由です。
モデル構築の基本
企業にAIを導入するためには、まずはAIをどのように構築するかを知っておく必要があります。
- データを集める
- モデルを設計し学習させる
- AIの精度を確認する
1.データを集める
AIに学習させるためのデータを集める必要があります。どんなデータでも良い訳ではなく、AIの目的と関連性のあるデータが必要です。
例えば、小売業が需要予測にAIを使う場合では、
- 対象品の売上数量データ
- 曜日・カレンダー ← 曜日と売上数に何かしらの関連がある
- 気象データ ← 気象と売上数に何かしらの関連がある
- 販促イベント ← 割引やクーポン配布のタイミングと売上数に何かしら関連がある
関連性のあるデータの種類、数量が多いほど、AIの需要予測精度が高まります。逆に関連性の無いデータを使うと精度が低くなってしまいます。
どんなデータを使うかは、企業の置かれている環境にもよりますので、事前に検討が必要になります。
2.モデルを設計し学習させる
モデルを設計し、データを読み込ませて学習させます。
モデルはプログラミング言語を書いて自力で作成することもできますが、最近ではプログラミングが不要な自動モデル構築ツールも販売されており、AI人材がいない中小企業であれば自動モデル構築ツールを利用することになると思われます。
自動モデル構築ツールとは、GUI(Graphical User Interfaceの略、マウスのクリックやドラッグで操作できる画面)を用いるだけ、モデルを構築することができるツールです。自動モデル構築ツールには一般的に数種類のモデル(例: 時系列モデル・重回帰モデル・機械学習モデル)が用意されています。それぞれ学習の仕方に異なった特徴(癖)があり、得意・不得意の分野が存在します。複数のモデルを試し精度が一番良いものを選ぶことになります。
3.AIの精度を確認する
構築したモデルが、目標の分析能力に達しているか確認する必要があります。テスト用に用意したデータを用いてAIの分析結果を確認し、期待どおりの結果でなけば学習データの見直しや追加を行い精度を高めていきます。
AIの導入方法
企画から導入・運用までの導入工程全体像は次の通りです。
- 企画
①導入範囲の決定
②導入費用見積 - モデル構築
①データ取得
②モデル構築・最適化 - 導入・運用
1.企画
①導入範囲の決定
a.改善点の把握
改善点について正しく把握し、AI導入の必要性があることを確認します。
例:よくある需要予測関連業務に関する困りごと
発注業務の負担過多 | ・発注業務にかかる工数が大きい ・欠品防止と在庫削減のバランスに関する精神的プレッシャーが大きい ・想定外の発注をかけることによる、仕入れ価格の増加 |
過剰在庫 | ・在庫管理の工数が増加 ・過剰在庫による廃棄ロスが増加 |
欠品の多発 | ・欠品による販売機会の喪失 ・欠品の発生による、顧客満足度の低下 |
b.対象範囲の決定
AIを適用することで効果を見込める対象範囲を確認します。
例:需要予測関連業務における検討
- AIを活用して予測を行う対象商品の優先順位づけを行い、選定する
・AI導入によって効果が見込めるか
・AIによる予測が可能か - 需要予測AIを活用してどの期間の需要を予測し、業務にどう活用するか設計する
・AIで来週1週間の売上点数を日別で予測し、点数予測に基づき発注する
・AIで半年後の季節品の売上点数を予測(3ヵ月分)し、それを基に売上計画を策定し仕入れ量を決定する - 需要予測による効果測定のための指標を設定する
・売上計画策定時間
・欠品率
・廃棄損、在庫回転率、在庫管理費用
②導入費用見積
導入に必要な機材やモデルの学習に必要なデータの手配に要する費用を概算します。
2.モデル構築
①データ取得
モデルに学習させるためのデータを定義し、収集する。
例:需要予測に必要なデータ
データの種類 | データ粒度 | 期間 | 補足 |
---|---|---|---|
対象商品の売上(例: 売上数量) | 商品、販売店単位 | 2-3年分 (最低1年分) | |
曜日・カレンダー(例: 平日、週末、休日) | 2-3年分 (最低1年分) | 一般的なカレンダーサービス サイトでダウンロード可能 (例:カレンダーAPI) | |
商品データ(例: 賞味期限) | 商品単位 | 1年分 | |
気象(例: 気温、天気) | 地区 | 1年分 | 気象庁のホームページにて、 過去40年の気温、降水量、 風速等が市区郡単位でダウン ロード可能 |
販促イベント(例: 割引、クーポン) | 商品、販売店単位 | 1年分 | |
各拠点・販売店の地理的データ (例: 拠点・販売店に関する位置情報) | 販売店単位 | 1年分 |
②モデル構築・最適化
前項「モデル構築の基本」に記載したように、モデルを設計し学習させ、AIの精度を確認します。
3.導入・運用
①現場へのモデル・機材の設置
モデルを構築したPCなど、業務で必要となる機器を設置します。
②新たな業務工程の浸透
AI活用効果の最大化のため、研修等を通じてAIの正しい使い方を現場へ浸透させます。
現場へ浸透させる方法例
・新しい需要予測を導入した商品供給工程における、各工程の作業を分かりやすく記した手順書を作成する
・新しい需要予測を導入した商品供給工程を、実際に作業しながら社員に展開する
③定期的なモデルの再学習・再構築
将来の予測を継続するにはモデル構築後も継続した更新を行います。また、説明変数の追加等を検討し、予測精度向上を試みます。
④業務への活用
効果の創出には、AIが出したデータを基に業務工程を変革する必要があります。
中小企業がAIを導入するには
AI導入ガイドブック 需要予測(小売り、卸売)では、中小企業が主導でAIを導入することにより、年間15万円~でAI需要予測を運用できると記載されています。どの自動モデル構築ツールを使ったかを明記していませんが、おそらくGoogle社のCloud AutoMLを使用したのではないかと思われ、実際に年間15万円~で運用できそうではあります。※AI技術者がいない中小企業で、Cloud AutoMLを使用するのは難しいと思いますが。
中小企業がAIを導入するには、次の手段があります。
1.ITベンダーに任せて導入する
2.AI導入ガイドブックを参考に、中小企業が主導で導入する
開発コストや運用コストを抑えるには、2を勧めますが、そのためには、AIの知識を持った人材、特にモデルを構築できる人材の確保または育成が必要と思われます。
AI導入ガイドブックで中小企業へのAI導入への壁が全て取っ払われたわけではないですが、道筋が見えてきたかと思います。
弊社では、製造業基幹系システム(販売管理、在庫管理、生産管理など)を中心にIT導入のサポートをしております。需要予測システム導入のサポートも可能ですので、お気軽にお問い合わせください。
弊社ホームページ:オフィスキシガミ | 中小企業診断士/ITコーディネータ事務所
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