中小企業の経営課題の正しい見つけ方~中小企業診断士による経営診断のやり方~
中小企業の経営課題の正しい見つけ方~中小企業診断士による経営診断のやり方~
目次
中小企業の経営課題の正しい見つけ方
経営課題とは企業が乗り越えて行かなければならない壁であり、現状と未来の姿のギャップこそが経営課題となります。
事業分析により事業の現状を把握し、財務分析により財務の現状を把握し、未来の姿を考えることで初めて正確な経営課題が見えてきます。
最近では、財務分析はお手軽にできるようになってきました。会計ソフトを使っていれば自動で分析指標を計算してくれますし、分析してくれる無料の※ツール(やホームページ)も増えています。それらを使えば大まかな分析ができるようになっています。
※ツールの例:ローカルベンチマークAct(近畿経済産業局)
しかしながら、財務分析だけで経営課題を見つけ出すには限界があります。例えば、「流動比率が100%以下であり、手持ちの現金預金が少ないです」と分析されても、解決しなければならない課題は何なのかが分かりません。
事業がどのように行われているか、そして、将来どのような姿を目指しているかを認識していることも重要です。
そのため、私(中小企業診断士)の経営診断では次のことを行います。
- 事業分析
- 財務分析
- 未来の姿の確認
- 課題の設定
事業分析と財務分析は同時並行で行い、その次に未来の姿の確認、最後に課題の設定を行います。
事業分析
事業分析とは、企業のビジネスモデル、市場環境、競合状況、経営戦略等を詳細に調査し、分析することで、事業の現状や問題点、改善点、将来の見通しを把握することです。事業分析により、企業の強みや弱み、戦略的優位性を明確化し、経営判断の基礎となる情報を得ることができます。
事業分析の方法
私が中小企業診断士として、事業分析で行っている方法を紹介します。
1.経営者へのヒアリング
経営診断の基本中の基本です。経営者へ様々な事をヒアリングし情報を聞き出します。また、事項に対しての適任者が他にいればその方にもヒアリングを行います。
どういった内容を質問するかは、分析の範囲や目的、業種や会社の規模等によって変えており、また、頂いた回答の内容により臨機応変に次の質問を変更します。
ヒアリングする際の大まかなテーマは次の通りです。
企業概要
経営戦略 | 市場(業界動向) | 顧客 | 仕入先 |
競合 | 代替え品やサービス |
業務関連(共通)
組織・雇用 | 営業・マーケティング | 人事・労務 | 財務管理 |
業務関係(製造業なら)
製品設計 | 技術管理 | 生産計画 | 要員計画 |
品質管理 | 外注管理 | 工程管理 |
施設・環境関連
施設設備 | 作業環境 |
2.現場の確認
小売業なら店舗、製造業なら工場を見せてもらい、どのように業務しているか、どんなことに困っているかを確認します。
現場を確認する際の大まか着眼点は次の通りです。
小売業なら
店構え | 商品 | 陳列 | 人員 |
客導線 | 従業員導線 |
製造業なら
工場設備 | 作業動線 | 生産管理 | 工程管理 |
倉庫(在庫管理) | 人員 |
外部環境をヒアリングする際には「ファイブフォース分析」「PEST分析」「STEEP分析]、内部環境をヒアリングする際には「バリューチェーン」も参考にしながら行います。
3.各種資料の確認
企業側にて作成している様々資料を拝見し、事業がどうなっているかを確認します。
企業の現状を確認する際の主な資料は次の通りです。
企業案内・パンフレット等 | 業務のフローチャート図等 | 主要な販売先と回収条件 | 主要な支払先と支払条件 |
主要な外注先と支払条件 | 重要な契約書(基本取引契約書・賃貸借契約書等) | 事業計画書 |
事業分析のまとめ方
経営者へのヒアリング、現場の確認、各種資料の確認にて洗い出した事業の現状を文章や図表にてまとめます。
使用している中で代表的な図表は次の通りです。
全てを作成しているのではなく、必要と思われるものを作成しています。
例えば、金融機関に説明する必要がある場合はビジネスモデル俯瞰図は必須であり、SWOT分析図はどんな用途でもほぼ作成しています。
ビジネスモデル俯瞰図
ビジネスモデル俯瞰図とは、事業の構造がどうなっているか、収益はどこから獲得しているか、経営上の課題はどこか等、会社の事業概要及び取引先との関係を示した図です。
ビジネス全体の状況を図にすることで、情報を共有し易くなります。
SWOT分析図
SWOT分析とは、事業の強み(Strengths)、弱み(Weaknesses)、機会(Opportunities)、脅威(Threats)を元に、事業の分析や今後の施策を分析する方法です。最も広く使われている手法だと思います。SWOT分析図は、強み、弱み、機会、脅威を2×2の表にまとめたものです。
企業の内部環境、外部環境の特徴が一目で分かります。
私がSWOT分析図を作成する際に注意していることとして、経営者からのヒアリングにて導き出された強み、弱み、機会、脅威を記載する際には必ず裏付けを取ります。
経営者のヒアリングでは、思い込みや期待のみで回答しているものや、一昔前までは強みだったが今は強みでは無いものもあり、正確性に欠けています。現状分析が現状とズレていますと、肝心の経営課題の設定もズレて、解決のための施策をきちんと実行しても、現状から改善しないことになりかねません。
そのため、現場の確認や各種資料での確認、そして財務分析と整合性を確認をすることで、ヒアリング結果の裏付けをすることが重要になります。
ビジネスキャンパスモデル
ビジネスキャンパスモデルとは、企業の構造をわかりやすく可視化した図です。企業の構造を、パートナー、主要活動、リソース、価値提案、顧客との関係、チャネル、顧客セグメント、コスト構造、収益の流れの9つ分けてそれぞれ特徴をまとめます。
他には、「ファイブフォース分析図」「PEST分析図」「STEEP分析図]「バリューチェーン図」を作成することがあります。
財務分析
財務分析とは、企業の財務諸表(貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書)をより企業の財務状態や経営成績を評価し、財務の現状や問題点、改善点、将来の見通しを把握することです。財務分析により企業の強みや弱み、課題を把握することができます。
財務諸表より様々な指標値を計算し、それら指標を単年度内で評価したり、複数年度の推移で評価することを行います。
財務分析の手順
私が中小企業診断士として、財務分析で行っている手順を紹介します。
- 財務諸表をお借りします。複数年分(最低3年分)の財務諸表を要求しています。
- キャッシュフローを計算します。キャッシュフロー計算書を作成している中小企業はほぼありません。
- 貸借対照表及び損益計算書より、様々な指標値を計算します。
- キャッシュフローや様々な指標値を年度内での評価や複数年度の推移での評価、業界平均との比較で評価します。
財務諸表はできれば会計ソフトが作成したPDFファイルがほしいところです。なぜなら、指標の計算は、基本的にExcel等を使っているので、ファイル内の数値をコピー&ペーストできると正確性や効率性が上がるからです。しかしながら、中小企業の場合は、ほとんどは紙ベースか紙をスキャンしPDFファイル化したものしか持っておらず要望が叶わないのが現実です。
財務の分析指標
収益性分析
企業が利益をあげる能力を分析することです。少ない投資で効率的に利益をあげることができれば収益性は高いと言えます。
その指標は次の通りです。
・資本利益率
総資本営業利益率 | 総資本経常利益率 | 自己資本利益率 |
・売上高利益率
売上高総利益率 | 売上高営業利益率 | 売上高経常利益率 | 売上高当期純利益率 |
・費用の分析
売上高売上原価率 | 売上高販管費比率 | 売上高人件費比率 |
・資本回転率(回転期間)
総資本回転率(回転期間) | 売上債権回転率(回転期間) | 棚卸資産回転率(回転期間) |
買入債務回転率(回転期間) | 固定資産回転率(回転期間) | 有形固定資産回転率(回転期間) |
安全性分析
企業の財務的な安定性を分析することです。収益性が高くても、資金が無くなり支払ができなくなると企業は倒産してしまいます。つまり、安全性分析は企業の支払能力や倒産リスクを分析することです。
流動比率 | 当座比率 | 自己資本比率 | 固定比率 |
固定長期適合率 | 負債比率 |
生産性分析
投入した人や設備等のインプットに対する(※)付加価値等のアウトプットの効率を分析します。少ないインプットで、多くのアウトプットが産出されれば、生産性は高いと言えます。
※付加価値の定義は様々あります。
例:付加価値=売上高- 外部購入費用
事業再構築補助金での定義なら、付加価値=営業利益+人件費+減価償却費
労働生産性 | 資本生産性 |
成長性分析
企業の売上高や利益、総資産などが一定期間でどれぐらい成長しているかを分析します。
売上高成長率 | 経常利益成長率 | 総資産成長率 |
損益分岐点分析
損益分岐点とは、利益がちょうど0となる売上高のことを指します。企業がどれぐらい安定的に利益を上げられるかを分析することができます。
セグメント別損益分析
顧客、商品、店舗、事業所等のセグメント別に損益を分析することです。より意思決定に役立つ情報を得ることができます。
財務の評価のやり方
財務諸表より様々な分析指標値、キャッシュフローを算出して、それらを評価することで企業の現状が見えてきます。
評価のやり方として、次のことを行います。
- 複数の分析指標値を組み合わせて評価する
- 複数年度の推移を確認して評価する
- 業界平均と比べて評価する
例えば、借入金(借金)が多いだけで安全性は低いと判断はしません。負債比率を確認して資本金とのバランスを確認したり、前期から減っているのか増えているのか確認したりすることで、良し悪しを判断し、今後の対策を検討します。
経営者が描く未来の姿の確認
現状と未来の姿のギャップが課題となるため、経営者より未来の姿を確認する必要があります。
ほとんどの経営者は、明確さに違いはあれど未来の姿を頭の中に描いています。それを明確にし具体的に文章や図表で表すことを行います。
経営者が描く未来の姿を明確にする方法は次のとおりです。
1.経営者へのヒアリング
経営者に頭の中にある未来の姿を言葉にしてもらいます。私のような支援者とやり取りすることで、考えがまとまってきます。
2.経営者とのディスカッション
ヒアリングだけでは不明確な部分も出てきます。その場合は、事業分析や財務分析の結果を元に私のような支援者とディスカッションすることで、良い考えが浮かびます。
将来の方針を決める時によく使われるフレームワークがクロスSWOT分析です。最も一般的に使われている手法です。
クロスSWOT分析とは、SWOT分析にて企業の内部環境(強み、弱み)、外部環境(機会、脅威)をまとめた後で、内部環境と外部環境を組み合わせにより今後の方針(戦略)を分析することです。
経営課題の設定
事業分析、財務分析、未来の姿の確認ができれば、最後に経営課題を見つけ出します。
実際には、事業分析、財務分析、未来の姿の確認を経る流れの中で、自ずと経営課題が見つかってきます。それらを洗い出せば経営課題がまとまっていきます。
しかしながら、おそらく、大変多くの経営課題が洗い出されると思います。全て解決させたいと思えど、時間やリソースが足りないはずです。
そこで、経営課題の優先付けを行い、解決していく順番を設定します。
優先順位の決め方としては次のような考え方があります。
- 影響範囲が大きい課題(その解決すると他の課題も芋づる式に解決するような課題)
- 費用対効果が高い課題
経営課題を見つけ出し優先順位を付けることで、初めて解決まで具体的な行動を行うことができます。
弊社は、経営診断だけでなく課題解決の施策検討、施策実施までの伴走型支援を行っています。経営課題の解決にお悩みの場合は、弊社が支援いたします。お気軽にお問い合わせください。
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