岸和田市の事業者を盛り上げたい~一歩先行くキャッシュレス対応の勧め~

岸和田城
岸和田城

筆者は、大阪府岸和田市出身の中小企業診断士兼ITコーディネータです。中小企業向けにIT経営やシステム導入などの支援を行っています。そんな筆者が生まれ育った岸和田市の事業者を盛り上げたいと思い、地域全体の事業者にとって有益と思われるIT施策を独自に検討しています。

本コラムでは、ある情報番組で取り上げられていた地域限定のキャッシュレス対応を検証してみました。

キャッシュレス決済について

キャッシュレス決済とは、現金を使わずに支払いを済ませる方法です。近年、国がキャッシュレス決済を推奨しており、自治体向けや事業者向けにキャッシュレス対応の支援を行っております。

キャッシュレス決済手段としては次のものがあります。
・クレジットカード
・デビットカード
・電子マネー
・ポストペイ型の電子マネー(QUICPayやiD)
・QRコード等決済
・商品券・プリペイドカード
・口座振替
・銀行振込

(情報は、一般社団法人キャッシュレス推進協議会出典「キャッシュレス・ロードマップ 2020」を参考にしています。)

キャッシュレス対応について思うところ

筆者がキャッシュレス対応について思うところは、ずばり事業者に対してのメリットがとても小さいことです。

事業者が受けるメリットとしては大きく2つあります。
・レジ業務の効率化やデータ上でお金を管理できて売上管理業務の省力化など、店舗における働き方改革の実現
・外国人観光客など、新規顧客の獲得
(これらのメリットは、一般社団法人キャッシュレス推進協議会出典「キャッシュレス・ロードマップ 2020」を参考にし挙げましたが、PayPayなどの決済事業者のホームページでも大体同じメリットが記載されています。)

なぜ、これらのメリットは小さいと言えるんでしょうか?
次で解説しますが、事業者の金銭面の利益に結びつくかどうか不明なメリットであるからです。

店舗における働き方改革の実現は、事業者の利益に繋がらない!

レジ業務の効率化や売上管理業務の省力化が実現できたとします。その場合、直接的な効果は作業時間の削減となります。従業員に残業が発生している場合を除き、この段階では金銭に直接効果がありません。金銭の効果を得るためには、人員削減で人件費を減らすか、営業やマーケティングに人員シフトし売上を増やさなければなりません。しかし、即座にできることではないでしょう。

キャッシュレス対応は、作業時間の削減は確実に実現できると思いますが利益に繋がるかは不明であり、メリットは小さいと考えます。

キャッシュレス対応だけで、新規顧客は獲得できない!

キャッシュレス対応すれば、クレジットカードを使う外国人観光客を顧客として取り込めたり、PayPayなどの決済業者のキャンペーンに乗って新規顧客が増える可能性があるのは確かです。しかし、キャッシュレス対応をした段階では潜在顧客や見込み顧客でしかありません。結局は、顧客を増やすには、新たに増えた潜在顧客や見込み顧客に対してマーケティングやプロモーションをしっかりと実施することが重要になります。

キャッシュレス対応で、新規顧客が増えるかどうか不明であり、メリットとしては小さいと考えます。

手数料が高すぎる!

国の支援もあって決済端末機やシステム利用料などのシステム導入費が無料であるなど、キャッシュレスが導入し易くなっています。しかし、どの決済事業者でも、決済の手数料が大体3%ぐらい掛かります。

では、この手数料が事業者にどれくらい影響するのでしょうか?

粗利益から考えた場合

売上高:100万円
売上高原価率:70%
決済手数料:3%
の小売業で考えてみます。
※中小企業の小売業の平均原価率は71.2%(出典:政府統計の総合窓口 中小企業実態基本調査)であり、平均的なモデルケースになります。

現金の場合:
100万円(売上)- 70万円(原価)= 30万円
粗利益は30万円となります。

キャッシュレスの場合:※全てキャッシュレスで支払われたとします
100万円(売上)- 3万円(手数料)- 70万円(原価)= 27万円
粗利益は27万円となります。※手数料は販管費なので正しくは違いますが、便宜上、粗利益と呼んでおきます。

キャッシュレスの場合、現金より3万円粗利益が減少します。

では、キャッシュレスで、現金と同じ粗利益にするには、どれだけ売上を増やせばよいでしょうか?
112万円(売上)- 3万3600円(手数料) – 78万4000円(原価)= 30万2400円
売上は112万円必要で、なんと1割以上も売上を増やす必要があります。

キャッシュレス対応で、売上が1割も増えるでしょうか?とても難しいのではないかと思います。

IT予算と比べた場合

キャッシュレス対応でお金をデータ化すればシステムで扱うことができ、レジ業務の効率化や売上管理業務の省力化といった作業時間の削減効果を得られます。

では、そもそも事業者がシステムに掛けるお金はどれくらいが妥当なのでしょうか?

システムに掛けるお金をIT予算と呼び、導入したシステムを運用していくためのお金と、新たにシステムを導入するためのお金を合計したものになります。
IT予算は、業種、企業規模、組織構成などで事業者ごとに最適な金額は変わるのですが、平均で売上の1.12%となっています。
(出典:一般社団法人 日本情報システム・ユーザー協会 企業IT動向調査報告書 2020:JUAS_IT2020_original_Ver.4.pdf

つまり、キャッシュレス決済の手数料は、事業者の持つ全システムを運用するお金と新しいシステムを導入するためのお金を合計した金額より断然と高くなるということです。

キャッシュレス対応でのレジ業務の効率化や売上管理業務の省力化は、費用対効果がとても悪いと言わざるを得ないと思います。

粗利益から考えた場合、IT予算と比べた場合で検討しましたが、事業者にとって決済手数料の3%は高すぎると考えます。

以上が、キャッシュレスは事業者に対してメリットがとても小さいと考える根拠です。

一歩先行くキャッシュレス対応

キャッシュレスは、消費者にはポイント還元があり、決済事業者には決済手数料が入り、金銭面での利益を確実に得られるのに比べ、事業者は得られるかどうかが不明で現状かなり不利な仕組みとなっています。

では、キャッシュレスで、事業者のメリットを大きくする施策はないのでしょうか?

ありました。

広島県庄原市東城町でキャッシュレスにより事業者にもメリットが大きい施策が行われていましたので紹介します。

東城町は、地元商工会が決済事業者になり独自のICカードを発行しています。これは全国で先陣を切った取り組みです。
驚くべきことに、決済手数料は1%です。決済事業者が商工会なので決済での収入は地元に残ります。システム維持費を除いた分は、地元に還元することも可能です。
しかも、使用可能な地域が限定されていることで、
地域外に出ていた顧客を取り戻せる
ポイント還元による消費者の購買意欲が、地元の事業者に向く
などの効果があり、決済手数料が、地元の消費者に還元されて、地元の事業者で商品を買うといった好循環が期待できます。

コロナ禍の事業者支援として、ポイント還元率を増やしたところ、加盟店全体で売上が前年同月比1.5倍に増えたそうです。

さらに、東城町では児童や高齢者の見守りサービスに活用しています。例えば、小学生が学校に登校や下校時に専用カードを読み取り機にかざすたびに1ポイント(=1円分)が付与され父兄に安全情報が届く仕組みを整えています。これを知ったとき筆者は、児童の安全だけでなく、子育て支援にも繋がる画期的な仕組みだととても感心しました。

また、貯まったポイントを使ってもらう施策もあります。年末に抽選会を実施し、100ポイントで1回ガラガラを回せるようにしています。抽選会はよくある施策ではありますが、参加するのにポイントを使うので、ポイント目当ての買い物が増えることに繋がるし、商工会はポイントを効率良く回収できます。商工会に戻ってきたポイントは、再度地元消費者に還元することで購買意欲を刺激できます。よく考えられた仕組みです。

本取り組みは2019年4月に東城町で始まったのですが、2021年3月より庄原市全域に拡大するそうです。

岸和田市で実施するとしたら

岸和田市と庄原市東城町では様々な違いがあるので同じように実施できるかは、詳しく調査する必要があります。

特に、手数料を抑えてキャッシュレス決済事業を運用できるか検証することが重要です。

東城町では2019年10月時点では、加盟店が56店舗、キャッシュレス決済比率は43%だったそうです。
1店舗あたり年間売上2,400万円とすると、
※東城町の1店舗あたりの売上高は掴んでおりません。個人事業主の小売業の平均年間売上は約2,250万円(出典:政府統計の総合窓口 中小企業実態基本調査)なので、大まかな値として2,400万円にしました。

この場合手数料総額は、
2,400万円(売上)× 0.43(キャッシュレス決済比率)× 0.01(手数料)× 56(店舗数)= 約578万円
となります。

キャッシュレス決済事業で使えるお金は約578万円になりますが、この金額で事業を行えるのでしょうか?

システムを維持するための費用、ICカードを発行するための費用、消費者や事業者をサポートするための費用、キャッシュレス決済を販促するための費用などが必要になります。
東城町の人口は約7500人であり、この規模のユーザ数のシステムを維持するとなると、筆者の所感ではとても心許ない金額です。システムの維持だけでも心許ない金額ですので、その他の費用も含めると現状難しいのではと感じます。もっとキャッシュレス決済の利用者を増やす必要があります。

もしかすると費用を抑える術があるかもしれませんが、おそらく東城町だけでの運用は試用段階で、もともと庄原市全体に広める目的で進めているのかと思われます。(個人的に詳細を知りたいなと思っています。)
ただ、人口約7500人の東城町において手数料1%に抑えてキャッシュレス決済が運用できていること自体、岸和田市でも導入できる可能性を示しています。

岸和田市の人口は2021年3月1日時点で192,520人です。
卸売業・小売業の事業所数は、2016年時点で1,850です。
宿泊業・飲食サービス業の事業所数は、2016年時点で890です。
(出典:岸和田市ホームページ(人口・世帯数(令和3年3月1日)と(産業分類別事業所数及び従業者数))

岸和田市は東城町より規模が圧倒的に大きく、独自のキャッシュレス決済が広まれば十分に決済手数料1%で運用できる可能性があります。

また、広島市内から高速バスで約2時間半の位置にある東城町とは違い、岸和田市から大阪市内に行きやすいので大阪市内で使えない決済方法が広まるかどうかもしっかり調査する必要もあります。

岸和田市ですぐに東城町と同じような施策を行うことは難しいかもしれません。しかし、キャッシュレスは一時的な流行で導入されているものではなく、これから先、必要不可欠なインフラとして日本に根付くはずです。
現金から現金以外に支払方法を変えるだけの対応ではなく、事業者を含め地域全体が活性化する対応として東城町のような施策を取り入れてみるのも良いのではないかと思います。

もし、岸和田市が独自のキャッシュレス決済を始めた暁には、事業者の皆様、市民の皆様におきましては積極的ご参加することを推奨します。加盟店が増えれば増えるほど、利用者が増えれば増えるほど、地元経済が活性化していきますので。

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投稿者プロフィール

中小企業診断士/ITコーディネータ事務所オフィスキシガミ 岸上智広
中小企業診断士/ITコーディネータ事務所オフィスキシガミ 岸上智広